グラフィックデザイナー tento 漆原悠一さんに『フォント マッチングブック』使ってもらいました。

ブックデザイナーとして第一線で活躍されている漆原さんに
フォント選びの極意をお訊きしました。

PIE:
よく使うフォントはありますか?

漆原:
作る本の性格や見せ方によって書体の選び方は様々ですが、モリサワの中ゴシックBBB太ゴB101などベーシックな印象を与えるゴシック体を比較的よく使います。明朝体はそれだけで情緒があり雰囲気が決定されてしまう強さがあるので、慎重に扱うように心がけています。書体をデザインの中心に捉えることもありますが、基本的には、なるべく全体のバランスを考え、既存の書体を使う場合は、その本にふさわしい場所にそっと自然に存在してほしいと思っています。
イメージに合う書体が見つからない場合、書名や見出し用にオリジナルの文字を作字することもあります。

 

書名をオリジナルで制作した『旅する八百屋』(アノニマ・スタジオ)。既存のルートに乗せない自然栽培を中心とした移動式の八百屋さんの本。自然栽培の野菜が主役なので、端正なフォントを使用するよりは、形が多少いびつでも引っかかりのある描き文字がこの本には良いだろうと判断したという。

 

PIE:
フォント マッチングブック』を開いてみて 新たな発見はありましたか?

漆原:
意外な発見がありました。新丸ゴ(モリサワ)は、組み合わせによってはありえると思いました。「見出し」として面白い使い方ができそうです。じゅん(モリサワ)を「胎教」がテーマの書籍で使ったことがあります。丸ゴシックはフトコロが狭くスマートな書体も良いのですが、フトコロが広めの書体が好みですね。あと、ヒラギノフォントは今まであまり使っていませんでしたが、本書を眺めていると使ってみたくなりました。

どちらが正しいということではないのですが、アプリケーションのメニューからフォントを選ぶ行為と、『フォント マッチングブック』を使ってフォントを選ぶ行為は、同じことをしているはずなのに、頭の使い方がまったく違う気がします。モニターではなく紙に載ったフォントを選ぶこと自体すごく新鮮に感じました。

 

漆原さんのフォントマッチングはこちら!

[見出し]中ゴシックBBB(モリサワ)
[リード]游ゴシック体 M (字游工房)
[本 文]こぶりなゴシック W1 (ヒラギノフォント)

漆原:
これまで細い「こぶりなゴシック」は本文やキャプションに使用してませんでしたが、今回選んでみました。

PIE:
最近はすごく細いゴシック体がブームで、ヒラギノ角ゴシック体だと W0というウエイトが登場しましたよね。

漆原:
色校で印刷濃度をあげる赤字を入れたところ、ウエイトがひとつ上がるくらい太くなってしまいました(笑)

PIE:
特に細いウエイトのフォントは印刷濃度には注意が必要ですね。

漆原:
あと、必ずしも見出しは太い書体が良いとは思っていません。たとえば中ゴシックBBBは形がフラットでしっかりしているので、見出しに使っても文字の大きさや空間の取り方次第で成立します。

PIE:
ところで本棚には古くて素敵な本がたくさんあるんですね(←古本好き)

漆原:
DTP以前にデザインされた書籍は特殊な書体を使っているわけではなくても、しっかり骨太に見えます。自身が関わる装丁の仕事にもそれらの本に負けないぐらいの強度を求めていきたいと思っていて、それが書体選びの基準にもなっています。
今、自分が50年前の本を見て魅力を感じているように、これから50年後に手に取った人にも同じように魅力を感じてもらえれば嬉しいですね。
本棚にも古書と自分が装丁した本をごちゃ混ぜに並べて、遜色なく、力強く作れているかを確認しています。


tento漆原悠一さんのお仕事

『靴磨きの本』
長谷川裕也 著(亜紀書房)

漆原 「靴磨き」をメインに扱った書籍がこれまでになく、本書が初めてだったので、このジャンルで王道感が出るようにデザインしました。堂々とした印象を出すために書名と著者名を真ん中に置くことははじめに決めていて、一番に伝えたい書名を強いゴシック体で、著者名を明朝体にして差を付けています。

 

ゴシック体:漢字=見出しゴMB31、かな=こぶりな W6
明朝体:筑紫Aオールド明朝

 

 

『純喫茶、あの味』
難波里奈 著(イーストプレス)

漆原 書名は「あの味」の感じが伝わるように、昭和初期〜中期の雑誌でよく見られるような手書きの見出し文字の雰囲気を参考にしながら作字しました。手書きとスキャンを繰り返して形を整えています。

 

 

 

 

『小さなお店のショップカード・
DM・フライヤー』
(小社)

漆原 個性的な「小さなお店」のアイテムを伝える本なので、メインの欧文書体は、普段使わないようなクセの強いものを選びました。

 

欧文:Wood Type URW D
和文:漢字=秀英明朝 B、かな=秀英5号 B

 


うるしはら ゆういち
グラフィックデザイナー、 アートディレクター 1979年大阪生まれ。
京都精華大学デザイン学科卒業後 atom、松永真デザイン事務所、
soup designを経て、デザイン事務所tentoを設立。
www.tento-design.jp